キャンプするように人生を遊ぶ
南信州H様邸/2人住まい(『住まいnet信州2022秋冬号』掲載記事)
カテゴリ|信州への移住・別荘
移住を決めた南信州に建てた「小屋っぽい」平屋
長野県南部の陣馬形山キャンプ場(1,445m)は、山頂からの眺めが素晴らしく、天空のキャンプ場の異名をもちます。
南アルプスと中央アルプス、北アルプスまで見晴らせ、眼下には天竜川に沿って南北に伸びる伊那谷を一望できます。
この眺望に惹かれ全国からやってくるキャンパーの例にもれず、H夫妻は愛知県に住んでいたころから年に4,5回訪れ山頂にテントを張りました。
山を下り、さっきから自分たちが眺めていた伊那谷の中へ身を置いてみると、東に南アルプスが西に中央アルプスがそびえています。
この地から見える景色が格別気に入りました。
町も大き過ぎず、ちょうどいい田舎であることも。
いつか家を建てるつもりで、でも決断しかねていた二人ですが、この場所への移住はためらいませんでした。
町が提供するトレーラーハウスでの半年間の移住体験で気持ちは固まり、家を建てる間の仮住まいにと町営住宅へ移りました。
工房信州の家の担当は住宅営業らしからぬフワッとした雰囲気の素朴な女性でした。
「普通の家だったら要らない」という思いに寄り添い、土地探しから住まいづくりまで真剣に考えてくれて、夫妻の描く「小屋っぽい」この小さな平屋が完成しました。
見ようによってはタープを張ったよう。
お気に入りの景色の中に、ポールを立て、ペグを打ち、キャンプしているみたいです。
そもそもキャンプは自然の一隅を借り自然との一体感を楽しむもの。
寝るときもテントという薄い膜ひとつ隔てただけで自然を感じるのがいいのです。
工房信州の家の特徴である土間サロンは、屋内と屋外をシームレスにつなぐ仕掛けですから、自然と触れ合う感覚はキャンプのそれを思い起こさせます。
さらにウッドデッキは、テントの前室といったところでしょうか。
自然の中で遊ばせてもらうのだからテントが景観を損ねてはいけない。
家にも景色に溶け込むよう木をたっぷりと使いました。
「本物の木、しかも県産材を積極的に使って山をよくしているのがいい」と夫妻は工房信州の家を評価します。
H邸では各所で異なる県産材を使用。中には材の一部が変色しこれまで利用価値がないとされてきたブルーステイン材も活用しています。
木という素材が生むラフなノイズ感がまた小屋っぽくてたまりません。
東側から見たH邸。タープを張ったように屋根がかかる平屋で、広いデッキ部分はテントの前室みたい。第2のリビングダイニングとして積極的に活用できそう。 |
北側から見たH邸。山の斜面の傾斜をなぞるように傾く屋根、長野県産スギ板で張った外壁が美しい。壁のメンテナンスも暮らしの楽しみのうちとご主人は言う。
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縦にも横にも広がりを感じるLDK.床はカラマツ、柱はヒノキ、梁はアカマツ、天井はサワラ。すべて県産材で、キッチン前の腰板は菌の侵入で変色したブルーステイン材を使用。
奥の壁は黒色の天然土を混ぜたジョリパットで仕上げた。
地球は長く人生は短い。だから・・・、けれど・・・
子どもの遠足ではないけれど、キャンプに出かける前夜はワクワクします。
明日のフィールドへ何を持っていくか考えるときなどは特に。
ただ何でもかんでも車に積み込んではいけません。ギアは厳選すべし。
暮らしに喩えるなら、必要なものを次々足していくのではなく、必要なものだけを残していくイメージです。
そんなスタイルにちょうど良いボリュームで、かつ伸び伸び暮らしやすく、プロポーションも美しい。
「小屋っぽい」と言いながら小屋ではない。そこがこの家の魅力です。
ものを選んで減らして不便はないか?それを補うのが経験とスキルです。
野に出て、あるものだけでやりくりすることにもキャンパーは喜びを覚えてしまうのです。
H邸の面積10畳以上あるウッドデッキは、ご主人が材料を自ら手配し、施工も一人でしました。薪棚も自作。
家の北側にある畑では二人で食べるのに十分過ぎる野菜を育てています。
外壁はすべて無垢の木ですから、放っておけば傷み、経年変化といえる味を出すにはそれなりのメンテが必要です。
大抵の人は手がかかるから敬遠するのに、Hさんは「自分で世話をしたい、面倒をみたい」と言います。
高い場所のワックス塗りもこなすため高所作業車の資格も取得するつもりだとか。
床がコンクリートの土間サロンは、キャンプギアのメンテナンスにも好都合。 |
キッチンには大きな窓を設けて光をたっぷり取り込んでいる。 |
この家を建てて、夫妻は新しい家族を迎えました。
バーニーズ・マウンテンドッグのウルルです。
ウルルはオーストラリアで一番有名な岩、エアーズ・ロックのことを先住民アボリジニが呼ぶ名で、二人が新婚旅行で当地を訪れた思い出もあり愛犬に付けました。
アボリジニの聖地ウルルは、日の出や日没の時間帯に刻々と岩の色が変わるそうですが、H邸のデッキに腰掛けて見る南アルプスも「時間と共に見え方が変わるんですよ」。
そうHさんは話します。
南と中央の二つのアルプスが隆起して段丘をつくり、その間に天竜川が流れることで今の伊那谷になったのが2万年ほど前。
ウルルが現在の姿になったのが7千万年前。
地球史は長いです。それに比べたら人生は短い。
だから自然に対して謙虚に間借りさせてもらう。けれど肩の力を抜いてこの大地で遊ばせてもらう。
キャンプするように人生を楽しむ暮らしを拝見した気分です。
ウッドデッキに腰掛けたときに正面に南アルプスが見える。庭や畑仕事の後ひと息ついて山を見ると思わず言葉が漏れる。「最高だな」。
薪ストーブは岐阜のストーブ工房AGNI-CCを選んだ。 |
畳コーナーから望むのは中央アルプス南部の山々。 |
フォトギャラリーでも写真を紹介しています。ご覧ください。
私たちは設計士や施工管理士といった建築のプロでありながら、全社員が「信州コンシェルジュ」として豊かな信州ライフをサポートしていきます。
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